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End of Year Dance
(コンテンポラリーダンス)

 留学時代にVictorian Collge of the Arts(VCA)にて携わった舞台の一つ。四部構成のコンテンポラリーダンス。年度末に行われるEnd of Year Danceの公演に音響として参加した。スピーカーのリギング、ケーブルマネジメント、各公演期間中のシステムのセットアップ及びメンテナンスが主な仕事。舞台にはさまざまな役職が存在して、それぞれが明確に役割分担をしながら一つの舞台を作り上げていくのだが、一年生のうちは様々なチームに配属されて知見を広げることが求められる。そのため、僕はもちろん舞台美術の勉強のために留学したのだが、後期の公演では音響班に配属された。
 仕事内容自体は複雑なわけではない。音や効果音などの類は音響デザイナーが作るし(男性と女性の二人のデザイナーがいた)、僕らは機材のセットアップや、公演中のちょっとした補佐などをするだけで済む。もちろん劇場で使われるような巨大なスピーカーの吊り下げなどの経験はなかったものの、それ自体は難しいことではない。怪我に注意してさえいればよい。
 四部構成の演目のうちの一つでは、天井にあるキャットウォーク(細い通路のようなものが張り巡らされており、機材を置いたり、ケーブルをセットしたりしてある)から小型のbluetoothスピーカーが吊り下げられていて、振り付けの一部としてそれを使用ことになっていた。小型のスピーカーはダンサー一人一人にあり、それを音楽に合わせて振り子のように揺らしたり、全員で呼吸を合わせて水泳のシンクロのように演出する。これはなかなか面白い演出だった。
 こういう吊り物の紐の結び方は必ず教わる(僕らは十種類くらいの結びを学ぶ)。スピーカーと紐自体はカラビナを使って着脱されるので結ばないが、キャットウォークの手すりに紐を結ぶのだ。そういうわけで僕らは手分けして紐を手すりに結びつけた。公演中、ダンサーはこの垂らされた糸にダンスをしながらスピーカーを取り付け、終わるとまた外す。そして、残りの演目で邪魔にならないように、僕ら音響班が急いで紐をキャットウォークから巻き上げるのだ。
 問題はゲネプロで起こった。ダンサーの一人がスピーカーを揺らした時、紐の結び目が解けてしまい、スピーカーは別のダンサーの頭部に直撃したのだ。
 幸い怪我はなかった。
 外れたスピーカーの紐を結んだのは音響デザイナー本人だった。何らかの拍子に結び方を間違えたのだろう。彼女は劇場を出たエントランスの前の花壇に腰掛け泣いていた。もう一人の共同音響デザイナーが彼女の背中をさすって慰めていた。プロフェッショナルを目指す学生らにとっては、かなり重大な事故であり過失である。
 僕らは全ての紐をより強固な結び目に結び直し、相互に何重にも確認しあった。そして、毎公演前に全ての紐をチェックし直した。フロアで一人がスピーカーを取り付け揺らす。それをキャットウォークで僕らが結び目に緩みがないか、紐に切れ目や摩耗している部分がないか、つぶさにチェックをするのだ。
 そのおかげで本番の公演で事故が起こることはなかった。事故に遭った彼女もダンサーとして舞台に上がった。
 公演が無事に終了し、バラシも全て終わった後、皮肉屋の男の音響デザイナーが僕に言った。
「さぁ、これで全て終わりだ。君ももう帰っていい。それから間違っても二度とこんな場所に戻ってくることがないように!」
 劇場での紐の結び方は、解こうと思えば解けるように、そして使用中には絶対に解けないように、なおかつ素早く結べて、素早く解くことができるように結ぶ。


GRAVITATE (Trailer)


GENERATION GENERATION (Trailer)


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