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スーパーズーホールーム
(風鈴、ホログラムシート、丸ビル)

 二年生の夏だった。
 藝大の夏の藝祭では、一年生は強制的に神輿あるいは法被制作に駆り出されるのだが、上級生になると各々の好きなことができる。フリーマーケットで物販に勤しむのもいいだろうし、出店に精を出すのもいいだろうし、ミスコンに挑戦してみるのもいい。まったく参加しないというのも珍しいことではない。そして僕は多くの学生と同じく展示をすることにした。そういえばここは美大なのだ。
 僕はせっかくなので同級生二人と組んで作品を制作することにした。当時、インスタレーションアートやらメディアアートなどに興味のあった三人が集まった。少なくとも、三人ともデザイン科にいながらデザインにまったく興味がない、ということは共通していた。
 これは風鈴とホログラムを使用したインスタレーションアートだ。暗室の中で吹く微かな風に風鈴が揺られ、涼しげな音が響き渡る。そして床からの一点の小さな光源に照らされ、風鈴に吊り下げられたホログラムが玉虫色に煌めき、壁や天井にはガラスの影が波紋のようにゆらめく。外は目も眩むような猛暑日で、冷房の効いた薄暗いこの部屋はちょっとした休憩室というか、瞑想室のような趣さえあった……。
 この作品は藝祭での展示作品に贈られる『藝大アーツイン丸の内』という賞を取った。いや、正確には取り損ねた。
 この賞は、藝大と三菱地所がコラボして企画された賞で、受賞作品は丸ビルにて展示する権利が与えられるのだが、当然ながら丸ビルは美術館ではないので、暗室を作ることが不可能だった。少なくとも二年生の僕らには、燦々と陽光の降り注ぐビルのど真ん中に、映画の試写室のような暗闇を作り出すことは不可能だった。風鈴とホログラムの織りなす繊細な表現は、多くの人が行き来するオフィスビルの中で展示する作品としては、まったくもって不向きだったのだ。だから僕らはこの賞を頂いたものの展示することを辞退した。展示をすることが受賞の条件のため、結果的に僕らは賞を取り損ねた。
 ちなみにタイトルは、ちょっとした冗談みたいなものだ。僕のあだ名(ズーホー)をもじったものなので、作品の内容とはなんらの関係もない。ジェームズ・M・ケインの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』みたいなものである。それに僕はこのあだ名がそんなに好きではなかったし、むしろクラスに浸透しないようにしていたので、結局ほとんど広まらなかった。だから、このタイトルは作品とも、作者とも、何の関係もないようなものである。

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その他の作品

Puddle of the Moon

 これは板に月の形にマスキングをして撥水スプレーを塗布したものだ。それに霧を吹きかけることによって、撥水スプレーが塗布されなかった部分には水がたまって模様を作る。それを周囲の青白いライトが横から照らし、艶やかな水滴を浮かび上がらせる。光っているライトがゆっくりと他のライトに切り替わることによって、ラウンドブリリアントカットのダイヤモンドのように、光と影の形は複雑に変化する。
 雨上がりの夜の水溜りに浮かぶ月や、雨に濡れた路面を照らす信号や車のヘッドライトをイメージした。深夜に散歩がてら近所のコンビニに行く道で思いついたものだ。夏の通り雨が降って、まだ乾き切っていない夜だった

Design Researcher, Graphic Designer

 グラフィックデザイナーの知り合いのポートフォリオサイト。
 これはデザインもコーディングも僕がやりました。僕が最初に提案したデザインはもう少し装飾的だったのだけれど、彼女とやりとりする中で余分なものは削ぎ落とされていった。ボタンなどの要素も線を使ったデザインに変わり、アニメーションなどの動きも剥ぎ取られた。最終的にとてもストイック(禁欲的)なデザインとなった。

デッサン

 予備校にいた頃、来る日も来る日もデッサンに明け暮れていたわけだが、実際のところ、僕はデッサンを描くことが苦だったことはない。それは予備校内では大体において一番だった(その予備校から受かったのは僕ともう一人だけだったのだから、当たり前といえばそうなのだが)ということもあるが、デッサンを究めることが、むしろとことん楽しかったのだ。一枚描けば必ず、改善点が見つかる。そして次の一枚ではより上手いデッサンを描くことができる。完璧なデッサンというものはありえない。