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デッサン
(受験、A音、完璧なデッサン)

 デッサンについて。
 奇妙な話だが、藝大生は何かとあらゆることをデッサンに例えて説明したがる。とある同級生が、出会い系アプリで知り合ったという男性についてこう言う。
「あの人、デッサン力がないから、恋愛について客観的になれないのよ」
 その男が自己中心的な性格であることと、デッサンが関係あるのかどうかは僕には分からないけれど(会ったこともなければ写真を見たことすらない)、それだけ僕らにとってデッサンは、オーケストラのチューニングで鳴らされるオーボエのA音のように、絶対的な基準なのだ。
 予備校にいた頃、来る日も来る日もデッサンに明け暮れていたわけだが、実際のところ、僕はデッサンを描くことが苦だったことはない。それは予備校内では大体において一番だった(その予備校から受かったのは僕ともう一人だけだったのだから、当たり前といえばそうなのだが)ということもあるが、デッサンを究めることが、むしろとことん楽しかったのだ。一枚描けば必ず、改善点が見つかる。そして次の一枚ではより上手いデッサンを描くことができる。完璧なデッサンというものはありえない。
 受験時代は毎日が決まりきった出来事の繰り返しだった――朝起きて予備校へ行き、デッサンを描いて、帰ってきたら不味い晩御飯を食べて、さっさと寝る。変化に乏しい質素な生活だったが、(受験そのもののストレスを除けば)とても満ち足りた日々だった。
 いまでも年に一回くらい無性にデッサンを描きたくなる日がある。だけれど、受験時代のようには描けないだろう。僕はもう死ぬまで、これらのデッサンより上手くなることはないのだ。

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その他の作品

Design Researcher, Graphic Designer

 グラフィックデザイナーの知り合いのポートフォリオサイト。
 これはデザインもコーディングも僕がやりました。僕が最初に提案したデザインはもう少し装飾的だったのだけれど、彼女とやりとりする中で余分なものは削ぎ落とされていった。ボタンなどの要素も線を使ったデザインに変わり、アニメーションなどの動きも剥ぎ取られた。最終的にとてもストイック(禁欲的)なデザインとなった。

Symphonique for Pendulum

 振り子の動きに連動した、スティーヴ・ライヒ的なミニマルミュージックが付けられた。センサーで振り子の動きを検知して、それに合わせて音が鳴る。アイデアは三人で練ったが、作品本体の制作は僕が行い、一人は音楽を、残りの一人は電子工作(プログラミング)を担当した。キネティックアートに音楽が加わることで、作品はより厚みを増し、この作品の評判は良かった。それ以降、何度かバージョンアップを重ねながら、いくつかの展示会で展示を行った。

スーパーズーホールーム

 これは風鈴とホログラムを使用したインスタレーションアートだ。暗室の中で吹く微かな風に風鈴が揺られ、涼しげな音が響き渡る。そして床からの一点の小さな光源に照らされ、風鈴に吊り下げられたホログラムが玉虫色に煌めき、壁や天井にはガラスの影が波紋のようにゆらめく。外は目も眩むような猛暑日で、冷房の効いた薄暗いこの部屋はちょっとした休憩室というか、瞑想室のような趣さえあった……。