この作品には前作がある。複数の振り子を使用した、いわゆるキネティックアートだ(公園のモニュメントにありそうな動く作品)。少しずつ長さの違う振り子を一斉に揺らすことで、位相が徐々にずれていき波形ができる。ちょっとした物理実験みたいな作品だった。
これはその作品をアップデートした作品で、音楽の要素が付け加えられた。それを実現するにあたって音楽部の学生らと三人で共同で制作することにした。藝大では普段、道路を挟んで美術と音楽のキャンパスは分断されており、ほとんど交流はないわけだが、この頃から徐々に合同授業が増えていた。彼らとはそうした中で出会い、作品を制作するに至った。
振り子の動きに連動した、スティーヴ・ライヒ的なミニマルミュージックが付けられた。センサーで振り子の動きを検知して、それに合わせて音が鳴る。アイデアは三人で練ったが、作品本体の制作は僕が行い、一人は音楽を、残りの一人は電子工作(プログラミング)を担当した。キネティックアートに音楽が加わることで、作品はより厚みを増し、この作品の評判は良かった。それ以降、何度かバージョンアップを重ねながら、いくつかの展示会で展示を行った。
専門分野は違えど、全員がお互いの専門に対する知識があった。彼らにも美術の素養があり、僕にも少しばかりの音楽の知識があった。そして全員がプログラミングに関する知識も持ち合わせていた。藝大においては珍しいタイプの三人が集まったし、なかなかバランスの良いグループだった。
学生団体(TEDxUTokyo)を抜けた後で、些か退屈していた僕が、また作品制作に向き合うきっかけとなれた。この作品があったからこそ、僕は卒業制作でもキネティックアートを作ることになり、大学院でもメディアアートを専門に勉強することにしたのだった。
デッサン
予備校にいた頃、来る日も来る日もデッサンに明け暮れていたわけだが、実際のところ、僕はデッサンを描くことが苦だったことはない。それは予備校内では大体において一番だった(その予備校から受かったのは僕ともう一人だけだったのだから、当たり前といえばそうなのだが)ということもあるが、デッサンを究めることが、むしろとことん楽しかったのだ。一枚描けば必ず、改善点が見つかる。そして次の一枚ではより上手いデッサンを描くことができる。完璧なデッサンというものはありえない。