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MAD FOREST
(Straight Play)

 留学時代にVictorian Collge of the Arts(VCA)にて舞台美術に携わった演劇作品。演目はキャリル・チャーチルの、ルーマニア革命(1989)を主題とした演劇『マッド・フォレスト(狂乱の森)』。
 美術監督補佐と大道具制作として参加した。制作期間の前半は大道具制作として携わり、後半からは美術監督補佐として、主に舞台と並行して行われる展示品の制作を担当した。
 キャリル・チャーチルといえば、クラウド・ナインやトップガールズなどが代表作の英国の戯曲家であるが、舞台の設定はたびたび奇想天外(ナンセンス)でありながら、現代の社会問題に切り込んだ内容を得意とする。この『マッド・フォレスト』も些か奇妙な内容だが、ルーマニア革命下に生きる人々を描いた社会派の三幕劇である。
 舞台制作においては、演出家も美術監督も音響デザイナーも、まず脚本を読むことから始める。僕は最初、大道具の制作チームに配属されていて、デザイナーが考えたデザインに沿って工房で制作するチームのため、誰も脚本なんて読んでいなかったのだが(読むに越したことはないが)、途中から僕が希望して美術監督の補佐に役職を変えてもらって、まず最初にしたことは脚本を読むことである。とにもかくにも読まなければ始まらない。
 大きく分けると一幕は革命前、二幕は革命中、そして三幕では革命後の人生が描かれる。一幕は正統な演劇であり、二幕では登場人物たちが順番にモノローグを行い、三幕では一転してマジックリアリズム的な世界が展開し、天使が登場したり犬がしゃべったり吸血鬼が現れたりする。衣装も質素な装いから、けばけばしいキッチュな服に変わる。
 事前に観客にルーマニア革命について知ってもらうため、客席の背面のスペースで実際の革命に関して説明した展示物を並べた。そのため、劇場に入った観客はまず一通りこの展示物を観てから客席へと向かう。これらの展示物は僕が積極的にデザインして制作を行った(もちろん本当は舞台美術のデザインに関われたらよかったのだが、僕が留学へ行った時点ですでにデザインは確定していたのだ)。
 学生らは四つの劇団に分かれて配属されていたが、『マッド・フォレスト』に主に参加していたのは三年生(学部の最高学年)と院生のため、より気合いも入っていた。一年生なんかは夜中や土曜日も返上して制作に参加させられることに、多少不満げではあったものの、僕としても留学の全期間を通して、この演劇に携われたことが最も貴重な経験であった。当然、苦労も多かった。舞台制作の経験も乏しく、知識も足りない。英語も足を引っ張った。だが一緒に頑張れる仲間がいて、僕もとても支えられた。特にコロンビア人のジオには、連日夜遅くまで続く制作で疲れている中、しょっちゅう気にかけてもらった。
 八月のまだ肌寒い夜中、僕らは仕込みを始めたばかりでまだがらんとした劇場の舞台袖に座り、束の間の休憩を取っていた。僕が「英語で話すの疲れちゃった」と笑いながら冗談でジオに日本語で話しかけると、彼女はなんでもないという澄ました顔をしてスペイン語で返事をする。僕らはしばらく、まるでちゃんと通じ合っているかのように会話を続け、最後は彼女が「いつまでこれ続けるのよ」と英語で喋ってしまう。僕らは二人で腹を抱えて笑い続けた。この夜を思い出すだけで、泣けてくる。


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